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『A Sense of Seacoast』
日本アマチュア演奏家協会理事・ピアノと遊ぶ会会長 岡田克彦
<1991.8.執筆.ピアノと遊ぶ会・日本アマチュア演奏家協会共催
『ピアノと遊ぶ会・第14回チャリティコンサート』(外務省後援)
〔1991.10.27.〕プログラム・総合プロデューサー挨拶文として掲載>
1991.10.27.ピアノと遊ぶ会第14回チャリティコンサート〜世界の子供達のために〜
プログラム
もう8年近く前になる。太平洋を見おろす、江ノ島のとある茶屋のベランダの昼下がり。確かイカの丸焼きだったと思うけど、まあそのようなものを食べたりビール飲んだりしながら、当時桐朋音楽大学ピアノ科の学生だった須江太郎君(まだ出会って半年くらいだったように記憶している)に、その数日前に書いたばかりで、後にある室内楽曲のテーマに発展させることになったモチーフを収録したテープを聴かせて、感想などを聞いていた時のことだった。随分気に入ってくれた彼は、この8小節のモチーフを何回も聴いてから、驚くべきことをぼくに言ったのであった。
「ウン、いいねえ。岡田さんの曲っていつも思うんだけど、海の感じがしていいね。」
「何、海だって? 冗談じゃないよ。これはね、山奥のイメージで思いついたモチーフなんだよ。」
「いや、そんなことはない。絶対に海だよ。」
驚いたぼくは太平洋の荒波を指差して、
「じゃあさ、この静かなモチーフのどこがあんな感じなんだよ。」
と、文句を言うと、
「海は海でもこれは内海の静かな海だと思うよ。ともかく岡田さんの曲の特徴の和声のゆらめきは水の感じだよ、絶対に。どこか静かな海のそばで大切な時期を過ごした経験があるんじゃない?」
静かな海…。そういえば、高校の頃までずっと生まれ育った郷里の実家の旅館の屋上のフェンスにもたれかかると、屋島から五色台まで、キラキラと輝く静かな瀬戸内海が横たわっているのがいつも見えた。そう思ってこのモチーフを反芻していると、今はもう海の汚染で出来なくなってしまった潮干狩りのことや沖釣りのことなど、小っちゃかった頃の懐かしい思い出が頭の中を過った。これは完全に一本とられてしまったな。
「ふうん、内海ね……。いや、実はね、ぼく、四国の高松の出身でさ、ずっと瀬戸内海のそばで育ったんだよ。このモチーフはインプロヴィジョンだから、須江君の直感はあたっているかもしれないね。」
「へえーーー、岡田さんて四国の出身なの。やっぱりね。ぼくは湘南で育ったから、海や水に対する感覚は結構鋭いんだよ。」
しばらく感慨にふけっているぼくの方を彼はニヤニヤしながら見ている。
…わかったわかった。湘南の方が瀬戸内海よりステイタスが上だと言いたいんだな。
だからぼくも、
「そういえば、古生代の昔、生命は海から始まったんだよね。だから、山よりも海が偉い。ぼくの作品が普遍的だ、ということを須江君は言いたいんだね。どうも有難う。」
などと、いつものように話題を筒井康隆させてしまったのだけど、正直なところ、海や水に対する自分の中のノスタルジーを見透かされたことは、ショックだった。まあ、でも、一方では何かすごく嬉しくなってしまっていて、心の中では、「むははは
…」と、椎名誠風に笑ってしまっていたのだ。
…こんな調子で、すべての音楽仲間との出会いは感性の触合いを抜きには考えられない。意識しているといないにかかわらず、音楽にはその人の感性の全てが投影されてしまう。
そして間違いなく、幼少期の感覚的な原体験が非常に大きなウェイトを占めている。
ぼくたち音楽仲間が、精神的に豊かな幼少期を過ごせたことへの感謝は誰しも感じていることだが、当時会員数が300人を越えていた「ピアノと遊ぶ会」が、会として世界の子供達のためのチャリティを意識し始めたのはこの頃からだった。
その後、いろいろなチャリティコンサートへの室内楽グループの派遣を通じて、1年間に1400万人もの子供達が5歳までに、つまり、原初的な感性を身につける機会を与えられることもなく、亡くなっている状況、が、次第にわかってきた。
しかし、本格的なチャリティコンサートに踏み切るには、全会員のコンセンサスのとりつけが必要だった。この点はもしかしたら、不十分かもしれないけど、まずは出来ることからはじめようと思った。
最後になりましたが、初回の今回から、ご来場くださった皆様、ノーギャランティーでのご出演、ご賛同、後援等下さった皆様、関西にいる幹事長の私をアシストして下さった、東京の幹事、スタッフの皆様に、心から御礼申しあげます。
ピアノやスコアに向かった時の
純粋な気持ちと幸福な一時を忘れずに、ずっとチャリティコンサートを続けてゆきます!
本日は本当に有難うございました。
関連エッセイ → 『世界の子供達のためのチャリティ受難曲』
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